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2012-01-28(Sat)
「でね、ゆいも見る目がかわったのよ」
「ん?」
「ほら、子供はみんなヒーローが大好きでしょ。
勉強ができて、遊びもうまくて、それでもって顔もきれい。
そんな子を好きになるのは普通なのよ。
でもね、大人になるにつれてそれだけでは物足りなくなってくるの」
「・・・」
「なんていうのかなぁ? 自分の好み?とでもいうのか、男の子のタイプでも色々あるでしょ。
普通モテなさそうな男の子でも彼女がいたりする。
顔が不細工でもおしゃべりが上手だったり、心底優しい人だったり、他はダメでもいいところも持ってる人」
「・・・」
「そういえば、昔ちょっと『ちょい悪オヤジ』なぁ〜んていうのも流行ったでしょ」
「うっ、うん、知ってる」
「あの人がモテるのがなぜだかわかる?」
「う〜ん、なんとなく・・・」
「そっか! ゆいもわかるのか。 だったらそれだけで十分」
「えっ、なんで?」
「早い話が、ゆいは野性味溢れる人が好きだっていうこと」
「えっ〜ぇ、なぜ、そうなるの?」
「だって今までの話、聞いてたらわかるでしょ。 気づいていないのはゆい、あなた本人だけだよ」
「そうなの・・・かなぁ」
「ほら、実は内心、心のどこかでぶっとい男の腕に抱かれてみたいと思ってんじゃない?」
「そっ、そんな、こと」
「ほらほら、顔が赤い。 正直ね、ゆいも」
「・・・」
「ほら、今、頭の中で妄想したでしょ。 あおい君の腕に抱かれて小さく可愛くなってる自分」
顔が発熱するほど真っ赤になった。
確かに男の腕に抱かれる自分を想像した。
それは誰だかわかんないけど、きつく抱きしめられた男の腕の中でちっちゃく可愛くおさまってる自分。
そうなれば幸せだなと・・・感じた。
「あっ、ゆい、でもね。 心配しなくてもいいよ」
「ん?」
「だって、みんなそう。 女は男に抱かれてなんぼのもん」
「ええっ、それはないでしょ」
「ううん、私も最初は否定したけど、いろんな本を読んで考えてみたら、結局とどのつまりはそういうことなのよ」
「えぇ〜、わかんない」
「ゆいにもわからないことはあるんだ。 でもね。 これはたぶん経験しないとわかんないわよ」
「かなは、経験あるの」
「みてのとおり、私は耳年増ならぬ読書年増。 そんなの経験あるはずないでしょ」
「だったらなぜそんな事が言えるの」
「それは本に恋をしたから。 なぁ〜んていうのは冗談。
私も経験ないから確実なことはいえないけど、でもそうなんかじゃないのかなと思ってる」
「ふ〜ん」
「男に抱かれるなんて云うのは極論だけど、
でも誰かに抱きしめられるというのは自分を認めてもらえているからでしょ。
そうやって認めてもらえた人の腕の中でおさまってるのは幸せなことじゃない」
「ほら、赤ちゃんがお母さんの腕の中だったらスヤスヤ寝てるけど、
ベビーベッドに置いた瞬間泣き出すことってよくあるじゃない。
抱かれてると気持ちいいけどベッドに寝かされたらつまんない。 だから赤ちゃんは泣くのよ。 それとおんなじ」
「・・・」
「それは男も女もいっしょ。 だからゆいも彼に抱かれてみなさい。 幸せになるよ」
「そっ、そぉ、そんなぁ〜」
「ねっ、今度、野球の試合見に行かない」
「えっ、なんで」
「あたしも興味持っちゃった」
ドキッ!
「あはは、あおい君じゃないわよ。 興味があるのはゆい。 あなた」
???
「恋する乙女がどんなふうに変身していくのか。 これは推理小説よりも何百倍面白そう」
「こらっ!」
「えへっ、でもね、ゆいもたいへんでしょ。
先生からいろんなことを期待されて、普段はおとなしくして黒ぶちメガネまでかけちゃって淑女お嬢様って感じじゃない。
それがある日メガネを外すと天下無敵のピュアなゆいが誕生するのよ。
いつまでも仮面をかぶっていないで、本当の自分を現したら」
2012-01-26(Thu)
「ねぇ、ゆい、最近、何かいいことあったの?」
「えっ、どうして?」
クラスメートのかなちゃんが尋ねてきた。
かなちゃん、川上香奈子、同じクラスの風紀委員。
本が大好きで、私よりいっぱい色々な本を読んでて詳しい子。
「なんかさぁ、授業中でもなんとなく薄笑い浮かべてさ、ニタニタしれるの」
「あらっ、ホントに? それは気持ち悪いわよね」
「そう、だから変なの」
「そっかぁ・・・」 身に覚え・・・のない・・・ことでもない。
「それだけだったら、まだ、いいんだけど」
「えっ? まだ他に、何かあるの?」
「ゆい、最近、綺麗になった」
「ブッ!! ブッワカァ! かなちゃん、いきなり、なんてこと言うの」
「だってさぁ、なんとなく最近肌の調子いいみたいだし。 なんかこう・・・私から見ても、仕草が色っぽいの」
「キャッ! やめて。 やめてよ、そんな話」
「最近、ダイエット、始めた?」
「そんなの、あるはずないでしょ。 そんな事聞くかなちゃんの方こそ変よ」
「いやっ! 私の目に狂いはない。 きっと何かがあるはずだもん。 正直にいいなさいよ」
ギクッ!!
「あっ! ゆい! 今、固まった。 ますます怪しくなったわね」
「・・・」
「ほぉ〜ら、返事しない。 ますます怪しい。 正直にいいなさいよ」
「かなちゃんには参ったわ。 言うから。 だけど、もうちょっとだけ待ってて」
「なによそれ。 ますます待てなくなった」
「ごめん、かな。 本当にもうちょっとだけ待って」
その後、何度も質問されたけど、今日は決して口を割らなかった。
だって、恥ずかしいもの、好きな人ができたって、簡単に言えるはずない。
その日はなんとかそれで終えたけど、かな攻撃はその日だけではすまなかった。
ことあるごと、二人になると、当然のように聞いてくるのでとうとう根負けしてしまいました。
「そうなの、ゆい、やるじゃん」
恥ずかしくてなにも言えなかった。
「そうか、優等生ゆいも乙女だもんね。 恋の花も咲くときはあるか」
「そんな、言葉、使わないで」
「で、彼のどこがよかったの」
あの夜、誰もいない道端、一心不乱に練習するその姿。
彼の野球のバットを素振りをしている時の、あの目。
まるで、ないはずのボールが見えているかのように、一点に視線を集め、ボールを捉え、叩く。
野生の目、男の目が光ってた。
彼のあの目が忘れられない。 今でも脳裏に焼き付いている。
今まで好きになった人のタイプと大きく違う。
片思いで終わった恋、恋といったら大げさだけど、過去好きになった子はだいたい優等生タイプ。
だけどそれが、彼だけは全然違った。
どうしてだろう。
あれから何度も考えたけど、わからない。
なにがそうさせたのか?
かなにそのことを話してみると、
「それはね、ゆいが大人になったからよ」
「やだ、変なこと言わないで」
「いやいや、そうなの。 子供の時は誰からでも好かれるような男の子が良かったんだけど、
オトナになると好みがはっきりしてくるのよ。 ゆいの場合は野性味のある人がいいんだろうね」
「そうなのかな? わかんない」
「あのね、女も変わるでしょ、子供から」
「ん?」
「女の発育で一番大きな変化は『初潮』 初潮を迎えて身も心も女になるでしょ」
「うっ、うん」 初潮と言われてちょっと恥ずかしかった。
2012-01-24(Tue)
勇気を出して声にしてみました。
当然、彼は振り返ります。
でもその表情はキョトンとした雰囲気だったので、もう一度言ってみました。
「あおいくんでしょ」
彼は黙ったまま私をみつめています。
暗い夜だったけど、周りは街灯や商店街から溢れんばかりの光で見えないはずはないのです。
それにしても彼は動かないまま私を見ていました。
「ああっ〜、わかんないんだ」
しょうがないな、彼の近くで自転車を止め、前かごにあるカバンからメガネを取り出し顔にかけました。
メガネをする時は自慢の長い黒髪を思いっきり、バサッという音が聞こえてきそうなくらい大げさにかき揚げ、
思いっきり女っぽく、色気ある行動を取るようにしたのです。
このポーズ、絶対印象に残るはず。
「ええっ? 黒木さん?」
「やっぱり、わかんなかったんだ」
「ご、ごめん」
「いいんですよ。 いつもメガネかけけてるから、わかんなかったんでしょ」
「うっ、うん」
「練習熱心ね」
「うん・・・、まぁ、大会も近いし」
「そう。 青井君の家は近所?」
「うん、そこの角」
「へぇ〜、青井君ち、お酒屋さんなんだ」
「うん、そう」
「委員長は?」 委員長と呼ばれてちょっとムッ!
「あっ、あたしはピアノの帰り」
「そうなん、ピアノの帰り」
「今日はいつもと帰り道じゃなくって、ちょっと駅前に用事があったから、こっちに来たの」
「そうなんだ」
「青井君は毎日こうやって練習してるの」
「うっ、うん。 まぁ」
「いつもこの時間?」
「まぁだいたい。 もうそろそろ終わろうかと思って」
「私も今日は遅くなったんだ。 その遅くなったついでのより道」
エヘッとした表情に舌をペロッと出しました。
「あたし、毎週火曜がピアノの日なんだ。 じゃぁまたね」
「うっ、うん。 じゃぁまた」
ワクワク♪
第一目標が達成できました。
彼の練習スケージュールを聞き出すのと、あたしのピアノの練習日を教えるのが狙い。
これで彼は毎週火曜の夜は練習してくれるだろうか?
わからないけど、そうでなかったら、それは、その時。
とにかく今日のところは軽く挨拶に止めようと最初っから考えていたのです。
自転車にまたがると、
「これからは委員長じゃなくって、名前で呼んでね」
エヘッ、別れ際の決めゼリフ、ハートはつかめたかな?
次の日は風紀当番、朝から校門の前に立っていました。
しきたりとして誰彼なし、みんなに「おはようございます」と声掛けをします。
特に先生の場合は「○○先生、おはようございます」 ちゃんと先生の名前を言うのが習わしでした。
そのうち、大勢の生徒に紛れてあおい君の姿も見えたのです。
えっ? なぜ、こんな時間に? あっ! そっか。
テストが近いから朝練ないんだ。
少し大きめな声で彼に向かって 「おはよう!」
クラスの当番風紀委員たちが一斉に私の方に振り返ります。
ふつうちゃんと 『おはようございます』 と言わなければならないのに、
彼に向かってだけなれなれしく 『おはよう!』 と言ったもんだから、みんながビックリしたようでした。
彼もちゃんと 『おはよう』 と返してくれたのはちょっと嬉しかった。
ああ、今日一日、何かいいことがありそうな予感。